投稿日:2022年7月13日 | 最終更新日:2024年11月21日

はじめに

家を買うときに、頭金が準備できない、あるいは頭金を入れたほうがいいか迷われる方もいると思います。

・頭金なしでも住宅ローンを組めるの?
頭金を準備してから家を買った方がいいの?
頭金のあるなしで何が変わるの?

このような疑問を聞くことがあります。

この記事では、以下の点について解説します。

  • そもそも頭金とは?自己資金との違い
  • 頭金なしで家を買える?
  • 頭金なしのメリット・デメリット
  • 頭金なしで住宅購入する時の注意点

マイホーム購入を考えられている方は、頭金だけでなく資金計画や住宅ローン選びの参考にもなりますので、是非最後までご一読ください。

頭金とは?自己資金との違い

そもそも「頭金」と「自己資金」の違いはなんでしょう?

頭金:物件価格-住宅ローン借入金額
・自己資金:頭金+諸費用

例えば、
・物件価格4,000万円
・諸費用  300万円

  合計 4,300万円の必要資金に対して、

住宅ローンを3,500万円借りる場合、頭金と自己資金は次のとおりです。

頭金
4,000万円-3,500万円=500万円

自己資金
頭金500万円+諸費用300万円=800万円

つまり、頭金とは物件価格(4,000万円)について、準備できる資金(500万円)を意味します。

家を買うときに必要な資金には、物件価格以外に諸費用も必要です。

そのため、自己資金は、頭金に諸費用を合わせたものになります。

頭金なしのフルローンで家を買えるか?

頭金がないと家が買えない、買うべきではないと考えられる方もいるかもしれませんが…

頭金なしでも家は買えます

物件の購入価格全額を住宅ローンで借り入れすることを「フルローン」といったりしますが、家は買えます。

家を買う人はどれくらいの資金を準備してる?

では、実際には家を買うときどれくらいの資金を準備しているのでしょうか。
頭金そのもののデータではありませんが、家を買うときの自己資金比率を調査したものがあります。

図表1は、物件種別ごとの購入資金に対して準備した自己資金の割合をあらわしたものです。

物件種別購入資金自己資金の割合
注文住宅5,11223.5%
分譲戸建て
(新築)
4,25020.9%
分譲マンション4,92939.1%
中古戸建て2,95944.0%
中古マンション2,99041.3%
図表1

自己資金には親などからの資金援助も含まれますが、平均値としても一定割合の自己資金は準備されています。
また、自己資金に含まれる諸費用は購入物件によって変わりますが、約4%~10%と考えると頭金として資金を準備しているといえます。

「令和3年度住宅市場動向調査」(国土交通省)

もう1つ、自己資金のデータとして住宅金融支援機構の調査結果があります。
図表2は物件種別ごとの手持ち資金と物件価格に対する割合を表にしたものです。

物件種別手持ち金
(万円)
購入価格に
対する割合
土地付き注文住宅412.39.3%
建売住宅(新築)270.07.5%
分譲マンション785.917.4%
中古戸建て214.98.2%
中古マンション418.913.8%
図表2

※購入価格は、注文住宅は予定建設費と土地取得費の合計、新築住宅及び中古住宅の購入については購入価額を意味します

これをみると、物件価格に対しておおむね10%~15%の資金を準備していることが分かります。

2021年度フラット35利用者調査(住宅金融支援機構)

頭金だけでなく諸費用も借り入れして家は買える?

頭金なしとしても、諸費用は自己資金で準備する場合諸費用も借入する場合があります。

頭金なしだけでなく、諸費用も借入する場合でも家は買えるのでしょうか。

頭金なしだけでなく諸費用を借入しても家は買えます

家を買うときの一般的な諸費用として以下のようなものがあります。

  • 仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 印紙代(売買契約、住宅ローン契約)
  • 住宅ローン事務手数料、保証料
  • 固定資産税清算金
  • 管理費等清算金(マンション)
  • 火災保険料
  • 耐震基準適合証明(フラット利用)
    など

購入する物件によって変わりますが、物件価格の4~10%が諸費用となります。

諸費用も借入可能な金融機関も多くありますので、審査上問題なければ頭金なしだけでなく諸費用が準備できなくても家を買うことはできます。

但し、金融機関によって借入できる諸費用が異なる場合があります。
仲介手数料や登記費用、印紙代、住宅ローン手数料、火災保険などは借入の対象となる金融機関が多いですが、固定資産税や管理費、修繕積立金の清算金などは対象とならない場合が多いです。

頭金なし住宅ローンのメリット・デメリット

「頭金なしでも家を購入することは借入金額が増えるだけ」と考えられる方もいるかもしれません。
ただ、頭金なしで家を買う場合、メリットだけでなくデメリットもあります。

頭金なしで家を買うデメリット

頭金なしで家を買うときのデメリットは次の2点です。

・住宅ローン審査に影響する
・住宅ローン金利に影響する

住宅ローン審査に影響する

資金計画は住宅ローン審査に影響しますので、頭金の有無、額も審査に影響します。

金融機関はさまざまな項目を総合的に審査します。
図表2は、金融機関が融資を行う際に考慮する項目と考慮する金融機関の割合で上位のものを表したものです。

審査項目考慮する金融機関
の割合
完済時年齢98.7%
健康状態97.9%
借入時年齢97.2%
担保評価96.1%
勤続年数93.2%
連帯保証93.1%
返済負担率93.0%
年収92.9%
金融機関営業エリア90.7%
国籍73.3%
融資率71.7%
雇用形態71.6%
図表2

頭金なしの場合、審査項目中直接影響するのは、「融資率」です。

融資率
 物件価格に対する住宅ローン借入金額の割合です。

4,000万円の物件価格に対して頭金400万円を準備し3,600万円の借入する場合
融資率は、3,600万円/4,000万円=90% 

4,000万円の物件価格に対して頭金なしの場合
融資率は、4,000万円/4,000万円=100%

4,000万円の物件価格に対して諸費用200万円含めて借入する場合
融資率は、4,200万円/4,000万円=105%

当然、融資率が高くなればなるほど審査は厳しくなりますし、借入金額が希望金額に満たない場合もあります(一部承認)

また、収入と物件の価格によるので一概には言えませんが、頭金なしの分借入金額が増えますので、返済負担率の項目にも影響する場合があります。

返済負担率
 年収に対する1年間の住宅ローン返済額の割合

さらに、担保評価の項目にも影響する可能性があります。

金融機関は住宅ローンの融資にあたり、万一債務者が返済ができなくなった場合に備え購入物件を担保(抵当権設定)にします。

そのため、借入金額に対しての物件の担保価値も審査対象になります

この点、頭金がない場合、
例えば、4,000万円の市場価値の物件に対して、4,000万円あるいはそれ以上の融資をすることになります。

一般的に金融機関の担保評価は市場価格より厳しく査定され、金融機関が考える担保価値に対し借入金額が増えるほど審査は厳しくなります。

住宅ローン審査はさまざまな項目を総合的に審査しますので、頭金なしでも問題なく借入ができることもあります(図表2参照)。ただ、住宅ローン審査に頭金が影響することは間違いありません。

令和4年度「民間住宅ローンの実態に関する調査」(国土交通省)

住宅ローン金利に影響

頭金なしの住宅ローンの場合、金利にも影響する場合があります。

フラット35のように融資率によって金利が変わる場合もあれば、審査によって金利が変わる場合もあります。

フラット35では、融資率によって借入金利が次のように異なります。

融資率適用金利
(2023年5月)
9割以下1.83%
9割超え1.97%
借入期間21年以上35年以下の最頻出金利

頭金なしだと融資率が9割を超えます。
一方、頭金を準備し融資率を9割以下に抑えられれば、0.14%低い金利で借入することができます。(2023年5月時点)

民間の金融機関でも、融資率によって最も低い最優遇金利ではなく上乗せ金利で融資という条件が付く場合があります。

頭金なしで家を買うメリット

一方で頭金なしで家を買うメリットとして考えられるのは次の通りです。

・早く家が買える
・住宅ローン減税が有効活用できる
・手元の資金を有効活用できる

早く家が買える

マイホーム購入を決めているのであれば、頭金なしで早く家を買うメリットが考えられます。

早く家を買う具体的なメリット

早く家を買う具体的なメリットとして以下のことが考えられます。

  • 完済年齢が早くなる
  • 健康なうちに団信に加入できる
  • 低金利の恩恵を受けやすい
  • 新居で子どもと過ごせる時間が多くなる
完済年齢が早くなる

早く家を購入することで、住居費を家賃の支払いから住宅ローン返済に充てられますので、完済年齢を早めることにつながります。

頭金なしの場合、融資率などでは審査的にマイナスに働きますが、完済時年齢、借入時年齢という審査については早く買うことでプラスに働きます。

健康なうちに団信に加入できる

民間の住宅ローンでは団信(団体信用生命保険)に加入できることが条件となります。

この点、家を購入する時期が遅れるほど、健康状態の面で何らかの問題を抱える可能性が高まると考えると、早く家を買うことは団体信用生命保険加入という意味ではメリットといえます。
また、年齢によってがん団信など団信特約の上乗せ金利が変わる場合もあります。

低金利の恩恵を受けやすい

現在の低金利の状況がいつまで続くか分かりませんが、早く家を購入することは低金利の恩恵を受けやすいとも言えます。

この1~2年でみたとき、変動金利に変わりはありませんが、長期金利の影響を受ける全期間固定金利や10年以上の固定期間選択型の住宅ローンの金利は上昇しました。
1年前に購入して住宅ローンを利用している人は、今購入する人よりも有利な住宅ローンを利用できているといえますし、変動金利も上昇する可能性があります。

新居で子どもと過ごせる時間が多くなる

マイホーム購入動機の1つに、家族が増えて部屋が手狭になった、住環境をよくしたいことがあります。
早く家を購入することで、子どもにより良い住環境を提供できる、将来独立して家を出るにしてもより長く新居で一緒に生活できるメリットがあります。

35歳頭金なし住宅ローンと40歳頭金ありを比較

なかには頭金なしで家を買うのは無謀、よくないと考えられる方もいらっしゃると思います。
1つの事例ではありますが、(A)頭金なしで早く購入する場合と(B)頭金を準備して購入する場合の経済的な違いを比較してみました。

頭金なし
35歳で購入
頭金500万準備
40歳で購入
自己資金300万円800万円
(頭金500万)
住宅ローン4,000万円3,500万円
必要資金合計4,300万円4,300万円

住宅ローン総返済額の差は以下の通りです。

頭金なし
35歳で購入
頭金500万準備
40歳で購入
毎月返済額119,675円104,716円
住宅ローン
総返済額
4,308万円3,770万円
利息308万円270万円

試算条件:金利0.5%・元利均等・返済期間30年
     ※金利上昇、繰上げ返済は考慮していません

毎月返済額の差は、約15,000円、
総返済額の差は、約538万円。
支払い利息の差は、約38万円

35歳から40歳までの5年間で支出した家賃などの住居費やその間の住環境の差、また前述のとおり、5年間の住宅ローン金利の上昇、団信の健康面でのリスクも考え合わせると、早く買った方がよいともいえます。

住宅ローン減税が有効活用

住宅ローン減税は、購入する物件や年収(所得税)、そして住宅ローン借入金額によって決まります。
この点、頭金なしで購入することで、借入金額が増え住宅ローン減税額が増える場合もあります。

個々の状況に合わせて判断をする必要がありますが、頭金が準備できる場合でもあえて頭金なしで借入する方法もあります。

手元に資金を残せる・有効活用できる

頭金を準備できる場合でも、住宅資金として活用せず手元資金に残すことで有効活用する方法もあります。

住宅購入後も車の買い替えやお子様の進学など節目節目で資金が必要な場合もあります。そういった場合に、頭金なしで手元に残った資金で対応することも考えられます。

また、資産運用など積極的に行う場合、現在の住宅ローン低金利の状況も踏まえると、頭金に活用するより運用資金として活用した方がよいという考え方もできます。

頭金なし住宅ローンで家を買う注意点

最後に、頭金なし住宅ローンで家を買うときの注意点をお伝えします。

・頭金の有無より予算設定が重要
・将来の売却や住み替えに影響

頭金の有無より予算設定が重要

ここまで頭金がない場合のデメリットやメリットをお伝えしましたが、それ以上に大切なのは予算設定を間違わないことです。

確かに、頭金の有無は住宅ローン審査や金利にも影響しますが、予算設定が間違っていなければ頭金がなくても無理なく返済できますし、頭金があっても予算設定を間違うと返済が厳しくなることもあります。

「頭金がなくても家が買える」ことと、「無理なく返済していける」ことは同じではありません。

住宅ローン返済以外の維持費や将来の必要資金も踏まえ、できるだけ長期の視点で予算を設定することが大切です。

将来の売却や住み替えに影響する

頭金なしで家を買ったあと無理なく住宅ローンの返済を続けらたとしても、のちのち家を売却する、住み替えるときに影響する可能性があります。

頭金なし住宅ローンで購入することは、

4,000万円の家を4,000万円の住宅ローン借入で購入する(フルローン)

もしくは、諸費用の一部も借入し、
4,000万円の家を4,200万円の住宅ローン借入で購入する(オーバーローン)

ということです。

市場価値4,000万円の物件に対して、4,000万円あるいはそれ以上の住宅ローンを借入する場合、購入後オーバーローンの状態が続く可能性があります。

つまり

家の市場価値より住宅ローン残高が上回る状態が続く

ということです。

これは、購入する物件の資産性、つまり資産価値の維持しやすさによって変わりますが、当然、頭金なしの場合は頭金を入れた場合よりその可能性が高くなります。

そして、何らかの理由で家を売却する、住み替えるとなった場合に、売却収入で住宅ローンが完済できない可能性があるということです。

まとめ

頭金なし住宅ローンで家を買うメリット、デメリット、注意点など解説してきました。

頭金なし住宅ローンのデメリット
・住宅ローン審査に影響
・住宅ローン金利に影響


頭金なし住宅ローンのメリット
・早く家が買える
住宅ローン減税が有効活用できる
・手元に資金が残せる・有効活用できる


頭金なし住宅ローンの注意点
・頭金の有無より予算設定が重要
将来の住み替えや売却への影響

頭金なしの住宅ローンでも家を買うことはできますし、必ずしも無謀というわけでもありません。

もしマイホーム購入を決めているのであれば、購入時期は早いに越したことはありません。

ただ、マイホーム予算の設定、頭金なしのデメリットもしっかり踏まえたうえですすめて頂ければと思います。