投稿日:2018年3月20日 | 最終更新日:2023年6月14日

はじめに

中古住宅を購入する際、新築以上に建物の状態への不安を感じると思います。

下図は令和3年度住宅市場動向調査による「中古住宅にしなかった理由」の調査結果です。

新築分譲戸建てを購入者
新築分譲マンション購入者

日本人の新築志向が1位となっていますが、「隠れた不具合が心配だった」「給排水管などの設備の老朽化が懸念」といった見えない箇所への不安も一定割合挙げられています。

その不安を解消する手段として、建物調査(ホームインスペクションといったりしますが)があり、そのうちの1つに国土交通省が定める「建物状況調査」があります。

この記事では、中古住宅購入を検討されている方に、知っておいた方がよい建物状況調査の意味、手続きについてまとめました。

令和3年度住宅市場動向調査(国土交通省)

建物状況調査とは

建物状況調査とは、

国が定める講習を修了した建築士が、建物の基礎、外壁など、建物の構造耐力上主要な部分および雨水の侵入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化、不具合の状況を把握するための調査です。

建物調査というと、専門的な知識を持つプロが、第3者的な立場で、建物の劣化や不具合などを調査すること全般をいいます。

その中でも、建物状況調査は、建築士の資格をもち、国の定める講習を修了した検査員が、国が定めた基準の則り検査するものを指します。

建物状況調査の対象

建物状況調査の対象となるのは、「既存の住宅」です。

既存の住宅とは、
・人が居住の用に使用したもの
・工事完了の日から1年を経過したもの

戸建て住宅、共同住宅(マンション、アパート)ともに対象となりますし、賃貸住宅も対象です。

一方、事務所や店舗は対象となりません。

建物状況調査の検査項目

建物状況調査の検査箇所は、

・建物の構造上主要な部分
・雨水の侵入を防止する部分

です。具体的には、

建物状況調査の検査項目

建物状況調査(ホームインスペクション)国土交通省から引用

また、上記検査箇所に加え、オプションとして、給排水管路の検査をすることもできます。

建物状況調査の方法

建物状況調査の検査方法は、

目視、触診、打診、検査機器を使っての計測など非破壊検査となります。

検査機器として、
・レーザー水平器(床)
・クラックスケール、鉄筋探査機(基礎)
等があります

床下に潜っての調査、屋根に上がっての調査などは行いません。

給排水管の調査をする場合は、通水して水漏れ等の有無、排水管の流れ、詰まり具合などを確認します。

居住中の物件であっても行うことは可能です。

かかる時間については、建物の大きさ等によりますが、一般的な目安として3時間程度です。

建物状況調査の検査方法
(建物状況調査(国土交通省)から引用

建物状況調査のあっせん

2018年(平成30年)4月施行の宅建業法では、売買の媒介契約書面に、「建物状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項を記載することが義務づけられました(宅建業法34条の2第1項)

媒介契約書とは、
不動産売買の取引においては、買主もしくは売主が仲介業務を依頼する不動産会社と締結する契約書になります。
仲介手数料を受領する根拠となるものでもあります。

建物状況調査に関して義務付けられていること

中古住宅を仲介する不動産会社には、以下のことが義務付けられています。

・媒介契約書に「建物状況調査の実施者をあっせんするか否か」を記載すること

・過去1年以内に建物状況調査が実施されている住宅については、その結果を重要事項で説明すること

・建物状況調査の結果を売買契約書等に記載すること

分かりにくいところもありますが、簡単にいうと、

不動産会社は、

中古住宅購入を検討する人や売主に、建物状況調査の制度の説明と「建物の状況を把握するための調査を行いますか」というあっせんをしなければならなくなった

ということです。

建物状況調査のあっせんに関する注意点

不動産会社からあっせんを受ける際の注意点がいくつかあります。

  • あっせんされても調査をする義務はない
  • 購入希望者もしくは売主の同意がない限り、自ら仲介する契約において、宅地建物取引業者が建物状況調査をすることはできません
    (但し、直接の利害関係を有しないグループ会社等のあっせんについては、同意がなくてもあっせんすることができます)

  • あっせんした場合でも、建物状況調査の結果について、責任はありません
  • あっせんに対する報酬等は必要ありません

建物状況調査をするにあたり、調査結果の客観性を担保することが大切です。

建物状況調査のメリット

建物状況調査をするメリットとして、以下のことが考えられます。

のちのちのトラブル防止

売主と買主双方が建物の状況を理解した上で取引が行われ、のちのちのトラブル防止に役立ちます。
買主は、建物の状態を把握した上で、より安心して購入することができます。
また、売主としても調査結果によって、安心感や付加価値をつけることができる場合もあります。

購入後のメンテナンスに役立つ

調査により、劣化状況や補修箇所などが一定程度分かりますので、購入後のリフォームやメンテナンスの箇所、費用を知ることができる

既存住宅瑕疵保険などの利用

必要な検査基準を満たすことで既存住宅売買瑕疵保険に加入することができる

既存住宅売買瑕疵保険とは、

既存住宅売買の際に加入することができる保険です。
購入後に建物の構造上主要な部分および雨水の侵入を防止する部分等で、瑕疵が発見された場合、保険金を受け取ることができます

但し、調査によって保険に加入できない場合もあります。

また、保険に加入できる場合も、補償金額や期間等に応じて保険料が必要です。

建物状況調査の問題点

ただ、この制度を利用する上で注意点や問題点をいくつか挙げさせて頂きます。

売主等の承諾が必要

建物状況調査をするには、売主の承諾が必要となります。
また、マンションの場合、管理組合の承諾が必要です。

この点、実際の運用面で考えた場合、建物状況調査を実施することにより建物の不具合や劣化箇所が明らかになることで、売却価格、取引自体への影響を考える売主の方も多いと思います。

また、仲介する不動産会社の立場からも、積極的に建物状況調査をすすめるメリットがあまりない点が問題点として残ります。

費用がかかる

調査を実施するにしても、費用は、原則として依頼者が負担します。調査費用は、調査を実施する事業者や建物の大きさや種類で変わります

目視・非破壊検査である

建物状況調査の方法は、目視・非破壊検査です。
ですので、検査をしたからと言って100%建物の状態が確認できるわけではありません。また、土地や敷地内の地中は調査対象に入っていません。

調査できない箇所がある

床下や小屋裏の点検口がない場合や移動困難な家具で調査ができない箇所については「調査できなかった」と報告書に記載され、それ以上の調査は行われません

まとめ

ここまで、建物状況調査についてまとめてきました。

中古住宅の売買をより安心してすすめる、中古住宅の流通を促進させるための制度といえますが、一方で実務上、この制度がどれだけ利用されるか課題も多い制度です。

ただ、状況によっては、活用できる機会もあります。
是非参考にしてみてください。

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